静けき時間
杉菜 晃



なぜ湖がよいのか

一望にできる姿をしてゐるから

瞳のやうに澄んでゐるから

四囲の風景をとかして

もう一つの世界をつくつてゐるから

おそらくそれら諸相に根ざして

我が魂を鎮める霊気が

湖水の奥深く湧いてゐるから



今も湖の中心に近く

幽かに波紋が生れる

水輪は微細にきらめきつつ

岸辺に寄せてくる

その冷たく澄んだ水を

掌にむすんで

感情の赴くままに

―我を救ひ給へ―

と祈りにも似た呟きをする

呼応するやうに

大きな魚が水面上に躍り上がる

煌きは湖畔を明るく照らして

みどりの水面深く没していく

奥まつた水陰で水鳥が啼く

ついで羽ばたき

また啼く





自由詩 静けき時間 Copyright 杉菜 晃 2006-11-17 10:31:07
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