つばくろ
ピクルス


いつもとは違う道を帰った日の彼女
もう歩けなくなって
駐車場の水溜まりに降る雨の波紋を見ていた
つめたく完璧な丸を描いて
にびいろの波紋は静かな口調で責めるから聞いてしまう
そうだね幾つもの波紋を通り抜けて
私達うまいことやったはず
なのに
彼女は催眠術にかかったみたいに
いつまでもいつまでも見ていた

特売日に怒ったような顔で叩くレジ娘
独りの時は、どんな顔をしてるの
少し飽きはじめた売れ残りのパンを
うれしげにかなしげにちぎっては
諦めながら池の鴨に放る
群れは
修羅のようだ
なにか云いかけて
また四肢を縮めた

信じること
傘をさしたなら雨には濡れないと思うこと
そうじゃないそうじゃない
最後の硬貨を握り締めて
広場の水道で
がぶがぶ飲む
水を、もっとたくさんの水を
言い損なって
聞きそびれて
いらくさを着るようになった

宥めてもなお燃ゆる望月は
街中の猫と犬を集める
よもすがらむせぶチグハグの
縫い針に謝っては
一匙ずつおすわりさせて
ウミネコの鳴かぬ海に返しておくれよ
ひとつとしてまっすぐのない海岸線から
また帰り道が始まる
 




自由詩 つばくろ Copyright ピクルス 2006-11-16 18:11:36
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