森の目覚め
三条麗菜

一人の少年の出現に
森はざわめき始めた

樹々に宿る精たちが
その瑞々しい肌を巡って
争うこととなる

乳房のような
臀部のような
熟した果実をふくらませ
森は目覚めに入った

私の樹液をあの子に飲ませ
あの子の体液を私に注ぐなら
私という樹の枝が揺れる時
森には風が巻き起こる

私はもう二度と
風にあおられることはない
この足元から生えた根が
より深く太く大地を
つかまえるのだから

森を歩く
無邪気な少年の深呼吸に合わせて
樹々たちもまた
溜息に似た呼吸をする

私にはまだ
柔らかな若葉が残っているから
それで好きなだけ抱いてあげるから
さあおいでなさい

若葉についた夜露のしずくが
あなたを清めるのだから
さあ恐れずに
おいでなさい

星々と共に
得意げになって天を駆ける
冬の魔王の姿が
見えないうちに

星々と共に
冷たい真実を投げつけてくる
冬の魔王の姿が
見えないうちに

……

星の見えない夜は
私は一本の樹となって
幻想の少年を待っているのです


自由詩 森の目覚め Copyright 三条麗菜 2006-11-14 23:30:24
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