押入れインディアン砦
銀猫

古く狭いアパートメントの2階に
インディアンの砦がある


そこは彼らの最後の砦で
敏腕の保安官に制圧され
ほとんど壊滅の状態に陥っていた

四畳半のあちこちに生えたサボテンの陰や
キッチンの僅かな床に這いつくばりながら
距離をじりじりと詰めて
彼らの命運を賭けた最後の闘いが始まる

スリッパの蹄の音
枕のボディーブロー
丸めた掛け布団に背中を沿わせ
保安官は勇敢に立ち向かう

インディアンたちの馬が嘶く

  ヒヒヒーン!!

前脚を高々とウイリーさせ
士気を高めた彼らは
立て籠もる保安官目がけて
一斉攻撃を開始した

  WHAOOOOO・・・・・
  HOWOOOOO・・・・・

雄叫びも勇ましく
羽根飾りの付いた槍も鋭い
酋長が聞き取れない奇声を上げると
一斉に彼らは突進する

保安官に勝ち目はあるのか?
残りの銃弾を数えて
(ひとりずつ確実に倒さなくてはならぬ)
(神よ)
(天よ)
(我に味方したまえ、我に力を!)
銃爪を引く!

  WHAOOOOO!
  WHAOOOOO!

  BAGOOOOON!!
  ZUGAHAAAAAN!!

四畳半の砂地にインディアンは次々に沈む
夕陽と同じ色の血が流れ
金星が瞬き始める頃
ようやく静寂が戻った

二の腕にバンダナを縛り
血止めした左腕
弾丸が突き抜けた帽子には
危機一髪の風穴が開いている

(終わったのだ・・)
(負けなかった・・)

すっかり荒んだ砦の中に
ウエスタンブーツの踵の音が響く

ふうっと銃口の煙を吹き軽く溜息をついて
今日の幸運を神に感謝し
胸で一緒に闘っていた十字架にキスをすると


すると
夕飯だから静かにしなさい!と天からの一喝
西部劇を演じていたキャストたちは
すごすごと現実の顔に戻り
西部劇には不似合に並んだ鯵の干物を
箸でつつき始めた



昔々
今は昔
六甲山の麓
小さなアパートメント
インディアン役は若かった叔父
保安官役は姪っこ


古く狭いアパートメントの2階に
インディアンの砦があった




    ※愛する叔父と傍らの幼い少女のために記す


自由詩 押入れインディアン砦 Copyright 銀猫 2006-11-14 21:07:02
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