変貌する女
吉田ぐんじょう


毎年この時期になると
瞼が退化するので
夜は
眼をあいたままねむる
口をあいていると
小さい生物の死骸が入るから
歯はくいしばるようにしている

深更
瞳孔がうっとりとひらき
白眼がしらじらと冴え渡る
そうなると最早
何も解らなくなって
フェード・アウト

朝起きると
首に噛み痕がついていたり
腕が一本増えていたり
羽が生えていたりする

もう既に
そう成ってしまっているので
仕方が無い
騒ぎ立てたりはしない

わたしは
ひとつ欠伸をして
諸々ひっつけたままで
ラジオ体操をやる

冬が深まると
瞼だけじゃなくて
もっと色々退化するので
今のうちに体力を付けて
酷いことには負けたくないので

深呼吸をして
腕を降ろすと
羽がばさっと取れた

三本めの腕で拾い上げ
庭の隅で
落ち葉と焼いた

真っ直ぐに上がった煙は
遥か上空で
飛行機雲と交差し

まばたきをしようとしたけれど
涙が湧いただけだった


自由詩 変貌する女 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-11-14 18:02:45
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