光化学スモッグ/スクリーントーン
ピッピ

i. 光化学スモッグ

色盲ではない
真っ白な高層ビル 真黒な人たち 白黒の横断歩道
灰色の空…いくら時間が過ぎてもモノトーンのオブラート
真っ白な月だけが顔を出して 星はここから見えない
星という存在を知らない
空というものはそういうものだと思っていた 4歳だった
花を見てよろこぶのは 花に色があるからだ
直線的に切り取られた視界 派手な看板を指差す
あれがおかしい これがおかしい おかしいものはいつも色がついている
おかしくないものは 色がついていない…

自転車を漕げるようになった 7歳だった
いつまでも雲は空から剥がれなかったけれど
その間隙に溢れた空のつなぎ目をずっと追いかけていた
途中で派手に転んだ 指先から血が出ていた
国道のほとりでさんざん泣いた
車の運転手が自分の方を見ているのに気付いて更に泣いた
自分の傷口を見てもうひとしきり泣いた 泣いたあと
傷口の赤と空の青は それほど見られるものじゃないということ
それと 鮮やかな色 つながっているところがいっぱいあった
この空と自分はつながっている そしてそれは目には見えない
ああ どこまでが本当なんだろう 車の流れ去る直線が境界線で
その向こう側が一面空だった 雨の降りそうな黒い雲だったけど
晴れていると思った 笑っていた



ii. スクリーントーン

番号は忘れたけれど ほらあれだよ
と笑いあう スクリーントーンの話だ
屋上で私達は誰にも分からない記号で笑い合った 16歳だった
空には青空が広がっていたけれど
さっきの授業で この雲量ならくもりだということも知って
それについてでも笑いあった
もう空がモノトーンだとは思っていない 空は青 常識
だけど
隣にいる友達は私と同じく 漫画を描いている子
漫画ではね やっぱり空は灰色だった 人物の輪郭に合わせて
番号を忘れたスクリーントーンを削っているとあの時を思い出す
直線的に切り取られた空 今では私が切り取る側になったけれど
もう自分の血を見ることも少ない
見なくても自分が生きていると認識できる
でも ああこの中で生きている人は
自分の指先から生まれた人間たちは
空の青さを知らないし 自分で血を流すこともないだろう

こういう空を見てるとね あのトーンを思い出すの
番号は忘れたけれど ほらあれだよ
と笑いあう そう、あれとそっくりの空を見ている
光の屈折 そこから生み出された青 でもそんな理屈より
知っているだろうか 私たちはきちんとあの空から生まれたということを


自由詩 光化学スモッグ/スクリーントーン Copyright ピッピ 2006-11-14 00:27:06
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