灰色猫とわたし
石瀬琳々

───それは全宇宙での
   些細な惑星衝突なのだ
   おまえとわたし
   という星の



角を曲がったとたんに
猫と目があった
どこにでもいるような
ありふれた灰色猫だった
わたしは猫がそこにいるのを知らず
猫はふいにわたしが現れるのを
感知できなかったのだ
一匹と一人は驚いて
そして その存在を認識しあう


(ああ 人間だ)
(ああ 猫だ)
(あるいは)
(あるいは)


その一瞬に風が吹いた
晴れた空に雲が身じろぎした
どこかで水道の水滴が落ち
誰かがくしゃみをしようと身構える


その一瞬にメロディが生まれた
反射した光に花がひるがえった
はるかで車が横切り
何かが新しく形作られようと動き出す


次の瞬間に猫はいなくなっていた
わたしの瞳は空白の存在を探して
不安げにしばし辺りをさすらう


(きっと視線を感じたのだ)


ふと振り向くと
塀の陰に顔を半分だけ覗かせて
猫が
わたしを見ていた



自由詩 灰色猫とわたし Copyright 石瀬琳々 2006-11-13 16:27:01
notebook Home 戻る