「 月宴。 」
PULL.
夜ごと歩く月を追い、
旅に出る。
月は夜ごと、
誰かに囓られている。
夜ごと歩く月を追う旅は、
太陽の下を歩く。
容赦なく照りつける、
我が儘な太陽の下。
ただひたすら、
月を追い、
歩く。
太陽の下の旅は、
太陽が沈むまで続き、
太陽が沈むまでに、
夜営を張る。
紅の空。
夜が近い。
太陽が沈む。
暗闇が空を覆う。
ほどなく冷気が忍び、
地上を冷たく支配する。
夜ごとの夜が、
はじまる。
夜ごとの暖を取るときは、
星をかざす。
星はあたたかく灯り、
凍えることはない。
星に誘われ、
どこからともなく、
夜のものたちが集まり、
やがて宴になる。
夜のものたちの宴は、
影のないものたちの宴。
影のない夜のものたちは、
星の灯火のなか、
たがいの影を探り、
その身を擦り、
混じり合い、
まぐわい、
いくつものひとつになる。
まぐわいの宴は、
夜のどこまでも続き、
夜のどこまでもまぐわう。
そんなきりのないまぐわいの上を、
恥ずかしげに月が歩く。
月が歩くたび、
ひとつ、
またひとつと、
まぐわいが生まれる。
雲が恥じらう月を隠すが、
星の灯火がまた月に見せつける。
まぐわいはどこまでもきりがなく、
影のない夜のものたちは、
どこまでも夜を続けた。
どこまでも続く夜。
どこまでもまぐわい、
きりがない。
まぐわい。
続ける。
歩く。
月。
やがて夜がうすくなり、
夜平線の向こうが、
誰かに喰われ、
紅に染まる。
太陽が、
くる。
影のない夜のものたちは、
ようやく太陽に気づき、
悲鳴を上げ、
逃げ惑う。
逃げ遅れたものたちは、
地に磔にされ、
はじめての、
影を得て、
死ぬ。
宴の痕。
いくつもの焼け焦げた、
黒いそれが、
夜の通った痕。
ただひとつ。
旅人の影だけが、
永く延び、
続く。
どこまでも、
夜ごと歩く月を追い、
旅に出た。
月は夜ごと、
誰かに囓られるが、
その喰べ滓が、
空にてんてんと残るので、
月に迷うことはない。
了。