幸福のパン 
服部 剛

本を開くと
そこは遠い昔の日本のお寺 
お金持の人々が行列をつくり 
次々と賽銭箱に大判小判を投げ入れて 
ぱん ぱん
と手を合わす 

そこへ 
ひとりの乞食があらわれて 
薄汚れた手に握った
なけなしの小銭をちゃりんと投げた 

すると 
本堂の扉は左右に開き 
正面奥に坐る 
お釈迦様の像は光を帯び 
瞳を閉じたお顔の頬がほころんだ 


  * 


本を閉じると 
らんぷに照らされた夕餉のテーブル 
ティーカップに入った一杯の紅茶と 
皿にのった、まあるいパンがひとつ 

( 給料日の10日前 
( すでに口座のお金はすっからかん 

先月の給料日の夜 
たらふく食べたステーキはうまかったが 
今夜、焼きたてのまあるいパンを食べると 
ステーキとはちがう なにか が 
ぼくのなかで ふくらんだ 








自由詩 幸福のパン  Copyright 服部 剛 2006-11-13 00:34:27
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