6月の取り扱いについて
降旗 りの

手で触れようとすると崩れてしまうおそれがあります。
できることならば遠くから眺めているのがよいでしょう。


 *


 雨だれ

 雨の音がするのです。
 理由はそれだけです。
 すべての言い訳は
 雨に消されてしまうのです。


  
  * *


  芍薬

            ふくらみはじめ
        てしまった蕾を止めることは
     できません。それほどまでに純粋に花は
  ただ開こうとします。その先を考えたりは、しな
いもの。だから、どうか、あなたの方で私の温度をあ
  げないように注意を払ってください。どうするこ
     ともできないのです。蕾をつけてしまっ
        たことに、気がついてしまっ
            たその日から。


              
            *  * * 


             蝸牛

                    おとこのせいも
              おんなのせいも、おなじひとつのか
           らだのなかに。けれどひとりではあいすること
        はできません。かんぜんなひとつではないからです。わ
     たしはいつだっておもっていました。わたしがおんなでなかっ
        たら。あなたがおとこでなかったら。 けれど、きっと 
           おなじいたみをもつのでしょう。あなたがあな
              たであるかぎり。 わたしがわたし
                    であるかぎり。


 *    *  * *


 階段

 階段の途中で私たちは座り込み
 夏が来るのを待っています。
 階段の途中で私たちは揺れたまま
 秋の終わりを待っています。



         * *  **  *


         傘

         ひとつの傘の下にふたりでいると
         どちらかの肩が濡れてしまいます。
         肩に落ちる水の冷たさは 警告を
         発しながら ふたりの距離を縮め
         てしまう 透明すぎる共犯者です。


               
               *   *   *  * * *


             ジン・トニック

             サファイア色の時間……45ml
             6月のしずく   ……適量
             現実のスライス  ……一枚


             トニック・ウォーターというのは熱帯にあ
             るイギリスの植民地でマラリアよけなどに
             使われていた保健飲料です。6月に飲むジ
             ン・トニックには、時折トニックの代わり
             に「6月のしずく」が使われてしまいます。
             甘くするのも、苦くするのも、あなた次第。
             適量という言葉にご注意ください。

















自由詩 6月の取り扱いについて Copyright 降旗 りの 2006-11-10 03:44:56縦
notebook Home