夕暮れの城
折釘

夕暮れの城

ひかりは厚さを失いはじめひとりまたひとり
公園の砂場から友達がいなくなってゆく
やわらかな指の持ち主を伸びきった影が薙ぐ
夕暮れの城を築く今日の砂が水を失い
ひと葉の小枝を支える力もきえてゆく

街には灯がともり
柔らかな階を空は塞ぎ
冷たい目蓋の下で砂は震えていた
目を凝らさなければ見つからない
微かなかすかなふるえ

幼児はその城にすむ王
崩れかかった外壁を施工し
蛇口からの水路を通して壕を張り
小石の大砲とビー玉兵士の環の中で
誰も聞かない笑い声をたてる
吹きはじめた風の歓声が足跡を集める
遊びの主がいなくなった
タイヤ山には王妃の陽炎
腰掛けていた

いちばん星を覗く滑り台の穴に
いつの間に産み落とされた野犬の一匹
今にも飛びかかってきそうに潜み
くらい視線をまばたきもせず
幼い精神は注がれ

幼児は壊す
どこかの少女が泣きやまぬので
幼児は積む
何処かで銃声が雲に触れたので
幼児は目をつぶって
自分が死んでしまったことを知る
突き刺した小枝が最後に
倒れてしまうまで掻きよせ
沈黙のなみだを掻きよせ
一握りの砂の落下に照り残された
幼児の背中は震えている

突き刺しては倒し
突き刺さっては倒される
いつまでもくり返される
このちいさな不安の中でこぼれるしずくは
ものも言わぬ固い唇を結ぶ
なぐさめる者もない芽生え
水銀灯に冷やされて
集めた砂をふみしめる

投げ出された両足の踵から
流れ込んだ終止符が
彼というにはあまりに幼い皮膚に包まれた
祈りすらまだ知らぬ祈りを
汗に吸い込み
重み
見届ける
暗闇と光に震える
夕暮れの城は立っている




未詩・独白 夕暮れの城 Copyright 折釘 2004-03-22 03:49:16
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