彼は芸術家
ミゼット

*
彼の部屋を訪ねたら、押入れの中に裸の女の人がいた。
その人は手招きして、私に臍を覗けと言う。
「サイコグラフィアに出ていたのは、私のおかあさん。」
彼女が言う。
「かあさんは春画を見せたけれど、わたしは違うのよ。」
だから安心して。

恐ろしいものでなくちゃあいけない
うつくしいものでなくちゃあいけない

彼女の内臓は万華鏡でした。

*
万華鏡を見ているとばかり思っていたら、真っ暗なところに座っている。
どうやら押入れの中みたいだから、あたりを探って襖を開けた。

彼の部屋だ。
知らない女の人がいる。

おなかの中で歯車が動く。わたしは知らない間に何かになってしまったみたい。

だから言った。
「ここを覗いて。」
「姉さんは万華鏡だったけれど、私は望遠鏡よ。」
海を見せてあげる。

遠い景色が見えたらいいな
寂しい景色が見えたらいいな

ああ、凍える冬の海に赤いパラソルがゆれるわ。

*
赤  い パ ラソル
差して 歩 く誰か 海
海が、吼えてい  る。
 それ か ら  、   どうしてここはこんなに暗いの。

カチリ、
首の後ろで音がした。

見えた。 彼の部屋の天井、何度見ても木目が人の顔に見えるわ。

違う、人なのね。 さっき押し入れの中にいた人。 もう一人、知らない人。
頭の両脇に座り込んでいる。

「ハナは万華鏡、ノゾミは望遠鏡、」
彼の声がするわ。
「キョウコ」
なあに?
「君は鏡。」

彼は芸術家。

この日から寂しかった私には、いっぺんにお姉さんが二人できました。


自由詩 彼は芸術家 Copyright ミゼット 2006-11-03 00:33:24
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