近所のひとたち
吉田ぐんじょう


かわつらさんの奥さんは
精神を病んでいるそうだ
深夜
誰も居ないキチンで
皿を一枚ずつ割るそうだ
あの夫婦は
せっくすれす
だから
ってすずきさんが言ってた
そういうすずきさんには
自傷癖がある
もう五十過ぎてるのに
未だに手首を切るなんて
あたまおかしいんじゃないかしら
ってわたなべさんが笑った
わたなべさんの息子は
ひきこもりだ
排泄も部屋でやるんだって
若い人のやることは
わからないねえ
っておちあいさんが教えてくれた
おちあいさんには追跡妄想があって
いつもびくびくしてる
車が通ると
わたしの背中に隠れて
警察こわい
とか言う

そんなある日
かわつらさんと
すずきさんと
わたなべさんと
おちあいさんが
道でわだかまってた
聞き耳を立てると
よしださんとこの娘は
精神薄弱だ
と言ってるのが聞こえた

今頃帰ってくるなんて
ぜったいおかしいわよ
きっとトーキョーで
盗みでもしたんだわ
だってあのこ
すごおく眼付き悪いもの

本当のことなんて
誰もわかりゃしないのだ
ただ
そうやって話してる四人は
まるっきり健全にみえた

少なくともそれだけは
よかったなあ
と思った

秋で
陽がきらきらしてて
みんな幸せだといいなあ
とか


自由詩 近所のひとたち Copyright 吉田ぐんじょう 2006-11-02 13:24:34
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