冬の蜃気楼
恋月 ぴの

失恋は感傷に浸るためにある
そんな捨て台詞
あなたは残し
ひとり、わたしは取り残されて
遠く過ぎ行く機帆船の陰に
絶望の甘い涙を流す
(白い砂浜で貝殻ひとつ拾った
身体の隅々にまで刻まれた
あなたの癖
忘れたくても忘れられなくて
ふとした仕草に
反応するわたしの身体
他のひとにまで気付かれやしないかと
唇を噛み締めたまま
あの頃は遥か彼方へと遠のいた
(それは機帆船の陰となり
海沿いの一軒家
バルコニーの手すりに肘をつき
流れる雲を眺めていたい
(汐の匂いを胸元に感じ…
長い髪を切ってみよう
思い切り短く
あなたに背後から挑まれて
狂った馬車になった
あの夜の長い髪
冬の海は世捨て人の彷徨うところ
絶望の甘い涙ひとすじ
頬を支える薬指を濡らし
波を越えて潮風は
白い指輪の跡に戯れて狂おしく
淫らなわたしのこころを笑う


自由詩 冬の蜃気楼 Copyright 恋月 ぴの 2006-11-01 23:52:00
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