所感
吉田ぐんじょう


林檎は何時でも
小気味よい音を立てて
裸になってくれる
こんな女の人がいたらいいなと思う
十月の昼間は少し暑くて
隣家から
おもいっきりテレビの音声が聞こえる
シンクには
小腸みたいに繋がった皮が
ぽそりと落ちて
でもその小腸はいいにおいがする
人間の小腸はどんなにおいだろうな
そう思いながら裸の林檎を噛み砕いた


つまらないドラマを観た
人生は素晴らしく
夢は何時かきっと叶うし
此の世に悪人なんて一人も居ない
とかそんな内容だった
俳優も女優もみんな
多分本気でそんなこと思っていないんだろう
台詞は漏れなく棒読みだった
むかついたのでテレビを消して
煎餅を齧っていたら
電話が架かってきた
むかついていたので受話器を取り
じんせいはすばらしく
ゆめはいつかきっとかなうし
このよにあくにんなんてひとりもいない
と言ってみたら
電話の向うの相手はしばし沈黙
ののち
間違えました
と言って切った
以来
架け直してこない
わたしが悪いんだろうか


夕食に魚を焼いた
三尾焼いたはずなのだが
お皿に移す時
一尾足りなくなっていた
おかしいなと思って探したけど
何処にも居なかった
これはおそらく
グリルの向うと海が繋がっていて
まだ余力のあった一尾が
命からがら逃げ出したに違いない
海水が染み込んだんだろうか
甘塩鮭はずいぶん塩からかった



自由詩 所感 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-11-01 15:39:56
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