エーロゾル
はらだまさる

夕食を食べ終えた革命家は
中国で批判され始めた魯迅を読みつつ、
その狂人と凡人の差異について暫し記憶を手繰り寄せるように、
かの英雄ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャをして
「狂気の沙汰だ」と罵るのは一体誰なのだろうか、
と中秋の宵闇にぶら下がった埃っぽい下弦の月を
一飲みにした雲が優雅に流れてる粗悪な空を滑らかにする、
湿気たクッキーのように疲労した近視の眼を閉じて、
窪んだ瞼を両手の指の腹でぐうと押さえながら
白と黒と白と黒の微細なツートーンに覆われた丘陵が
どこまでも遍く世界に浮かんでは明滅し、
落下する数々の光を追いかけて、
気仙沼のもどり鰹やロンドン塔のコモン・レイヴン、
世界中の路上で光に触れたいとせがむように沈黙する
ミケランジェロのための小石に、
ピコピコというコンピュータ・ミュージックが
感覚を麻痺させて錯乱する精神の繭に
内包した人間の最後の尊厳で、
内臓と云う内臓、血液と云う血液を絞り尽くすように、
グローバリズムと云う巨大な牛に追われた人類の
足枷のような高度資本主義社会に渦巻く裕福なるものの虚栄と、
平等を振り翳す大衆の陰に潜む嫉妬、
不純な正当性が罷り通る殺戮、
その全てを増殖する貧困と無意味な禁止とが、
この星の夜空からペガススやアルクトゥルスを奪い、
鮮明で健全なる希望を、
その切望を濁して
甘き死を批判するオングストロームの振動を
思いっ切りぶん殴って、それから彼は









一服した。







註)エーロゾル
大気中にはいろいろの化学成分と大きさをもつ微粒子が浮遊している。
これを総称してエーロゾルと呼ぶ。(以下のアドレスから抜粋)
http://kobam.hp.infoseek.co.jp/meteor/aerosol.html





自由詩 エーロゾル Copyright はらだまさる 2006-11-01 15:06:01
notebook Home 戻る