背骨を読む
はらだまさる

夕立の中で君は背骨を読んでいた。

真っ暗な瞼のうらに現れているみどりの正三角形を、
くうきを吸い上げた則妙筆でなぞるように
繰り返してみる。

大地を這う蛇に似た、
千万(ちよろず)の芳香が
何度も何度も脳髄を突き刺す槍のように
君を粉々に粉砕している。

最小単位の意味よりも
小さな粉末になった君は
ほどけない、どうにもほどけない永遠を
ほどかないと心で決めた。

林檎の実と皮との、間にあるものを。
朱墨の滲みゆく半紙を。
まばたきという絶望を。

愉快な彼等は
彼等で忙しいことを
充足しているから。

赤い雨に湿った紙の月をゆっくりと
誰も知らないことを誰にも届けられない、その指先で
少しずつ破いてみる。


今日はいつもより背骨が痒い。


君はそう言って私に
微笑んだ。






自由詩 背骨を読む Copyright はらだまさる 2006-10-31 11:22:06
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