遠い音
未有花

冷たい風が吹く
誰もいないススキ野原で
遠い音を聞いていた
はるか彼方から聞こえる
俗界からのメッセージは
幼い僕の心をとらえた
 遠くで車が行きかう音
 汽車の行く音
 夕方のチャイム
こうして耳をすましていると
すべてが別世界のように思われる
かすかなざわめきの中で
気づけばいつもひとりきりだった

あたりが暗くなって
空が薔薇色に燃えるまで
遠い音を聞いていた
このまま夕闇にまぎれて
はるかな世界へ行けるような
そんな幻さえ見えた
 遠くで犬がほえる声
 飛行機の飛ぶ音
 工場のサイレン
僕はこわくなってかけだせば
すべてが闇に包まれていた
遠ざかるざわめきの中で
気づけばいつもひとりきりだった


自由詩 遠い音 Copyright 未有花 2006-10-30 09:56:11
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夕暮れ詩集