冬虫夏草
あおば

幸せは
仕合わせと
書くのだと
誰かに聞いた

自分から努力して手に入れるのが
仕合わせなのだと
言いたいような顔をして
ところてん売りのお兄さんは
鉢巻きをしてバイクのエンジンを掛けた
ヘルメットがない時代の話なので
メットは要らない
まだ
世の中がのんびりしていて
人は死ななくてもよかった時代のことなので
安全なんてことばも要らなかったのかも知れない

毎日が忙しく
慌ただしくなった
今でも
ところてんは
栄養無いけど
みんな食べたがるんだ
太らないから
仕合わせになれるんだ
そう言い聞かせて
ところてん売りのお兄さんのバイクの音がするのを
首を長くして
待っている。



待ち草臥れて
四苦八苦しながら
宜しくなんて言っていたら
夜露死苦と書くのが恰好いいんだと
医院の先生が
診断を下してくれた
くれたから飲む
暮れたから帰る
一日の愚痴を
ルル述べる
虞美人草
上品に
活かされて
床の間でお客様の
来訪を待っている
お花屋さんも
ずいぶん
残酷なことをする

思うことがあります
いつかは
植物人間の復讐が
あったりして
そう思うと
なんだか
首筋がひんやりして
秋も深まったと
感じる冬虫夏草。


自由詩 冬虫夏草 Copyright あおば 2006-10-30 05:48:00
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