わたしたちの前転
捨て彦

学校の階段を
えらそうに前転しながら降りていくわたし(わたしたちは)
新品の
たわしをいつも持参しているので
タイミングを計っては
開きっぱなしの窓に向かって
たわしを力まかせに放り投げる




(それを阻止するのに掃除のおばさんは今日も必死)




逃げる際に一番重要なポイントはやはり
目にも止まらないスピードである
あるいは喋りたくってたまらない舌である

に疼きたくてたまらないリビド、という噂も聞く
つまり、
わたしのお弁当箱の中で箸が落ち着きもなく転んでいるという話
ですから
うふふ、と言いながらわたしたちは
その比喩を隣町の王様に託して
午前を勉学のみに費やし
ドン、
の音で下校する
のはちいと早すぎやしないかい(そもそも今日はサンデー)






ずさんな管理で営業が成り立っていないレストラン、イベント、ビール、
と口を尖がらせている隣のお兄さんは
ヘン
と生意気そうに返事をして
そのあとは携帯に夢中だった


それにしても
ヘン ヘン ヘンと彼が三回返事したことに
あなたは気がつかなかったのですか?(ずば、ずばばばば)
中心からは鋭角に物事が射撃されるのですか?
友達が三人いっぺんにダンボールで空輸されるのですか?
今日と明日の区別が根拠もないペンシルで書き直され推敲されるのですか?
君は五時ころ家に帰った?
昨日は本当にいろいろなお料理をご馳走さまでした?
あなたのことが前からずっと好きでした?(ずば ずばばばば)
地域に密着したサービスを提供する超大型ディスカウント屋台?
アラスカで無作為に抽出されたいとこの恋敵?
お味噌汁が美味しくてしょうがなかったからあの子に電話してみたけど
出ないのは私の恋敵が先手だったから?
あるいはベタ?
奥手?
あるいは切り返し?寄りきり?
引き落とし?
かすがい?たぐいまれ?
ししおどし?うっちゃり?






(…
ドーンと破裂…









次の日
架空模様の空には
全てがいつわりでした
などと平気で嘯く色彩が加わり(くわっ)


うあっつ
(くわっと目が)




ほら

またあの学校では
いつもどおり
わたしたちがたわしを手に
階段を前転下りしているはず


(くわっと目が)






自由詩 わたしたちの前転 Copyright 捨て彦 2006-10-29 20:52:24
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