田舎町の女の子
きりえしふみ
覚えている?
遠い遠いあの昔
あなたもわたしも 一人残らず
(胸を張っても良いわ) 皆裸のビーナスだった
つんと澄ましたそよ風とお気に召すまま たむろして
竹やぶの中を心は解け 駆けて行ったわ
あなたもわたしも その昔は
泥んこ好きのフローラだった
綺麗な靴など履かなくても 瞳の輝きだけで
もう それだけで立派な
フローラだった わたしたち
翻ってばかりで忙しい
おてんばスカートを諌めながらに丸ごと
希望をそっくり詰め込んで
無邪気さの言うままに偵察してたの
パバとママの視線の先と 原っぱや山の麓を
愉しみながらに見て回った
わたしたちは 小さな冒険者
さながら未熟な求道者
いつの日だって 風に光に耳寄せた
怖いものでも盗み見て
おしゃまな瞳のその奥で
瞑想してたの
日々と夜々の……例えば月の……煌めきを そのビーズを
小さきものも儚きものも
努めて大切に
心に留め 想いを浸しながら
忘れぬようにと縫いとめた わたしたち
町一番のお針子だった
沢山の風景を 真新しい出来事を
夢中になって書き留める
あの日のわたしたち
天がこの世に使わした
幼き頃のわたしたち
皆可愛く女のふりした ヘルメスだったわ
ホントの女になるまでは
(c)shifumi_kirye 2006/10/26