軌道
葉leaf

小さな点の上に静止することで
僕は歩いてきたのだろうか
足と足の踏んできた土は
目の前にうずたかく重なっている
軌道のつぼみは空間の針の数だけ
落とされては拾われてきた
つぼみはいつか
朝の舌として開花するのだ

僕の軌道は
無数の筆跡が点在する
巨大な岩である
巨大な殺戮である
糸のように伸びた季節と交わって
打撃する
改組する
僕の生まれた日
季節は季節とつながれた
僕の死んだ日
季節はひとまわり太くなった

季節が苔を張りめぐらせるように
苔は季節を張りめぐらせる
山脈の
絶望の
月光の
老いたすきまを埋めるため
苔の軌道は空間の膣を侵略する
大地は軌道を持たないので
苔にやさしい
僕は軌道を持つので
苔を踏みにじる

僕は街を行く
人とすれ違うたびに
軌道は銀線を浮き立たせる
僕は野を行く
樹木と出会うたびに
軌道は青く濡れてゆく
僕は電車に乗る
場所が連なり溢れるところへと
電車は向かってゆく

それぞれの場所からは
未軌道がゆるく噴き上がっている
僕のそれぞれの腕が
それぞれの皮膚に当てはめていくことで
未軌道は軌道になり
生きた柵として
僕と場所とをつなぎはじめる

僕は自転車で市街地へと向かっていた。その日は建物の肌がいやに眼球に触れてきた。足は無数に円を描いたが、円は太かったり細かったりした。笹谷から泉、泉から森合へと僕の髪の毛は進んで行った。もちろん髪の毛と一緒に僕も進んで行った。信号で止まるたびに、軌道は僕の肋骨によどみ、僕の彩度を測っていった。市街地に着くと、軌道は自転車から降りてデパートへと入って行った。僕は慌ててそのあとを追った。

僕は眠る
僕の網膜はちぎれて漂落し
軌道のかたちを模倣する
僕の血液は街道に流れ込み
軌道の軌道を希釈する
僕の夢は林状の軌道に沈み
真っ赤な気流だけで頭皮と通信する
僕の無数の淡い指先は
軌道に刺さり記憶のように蓄電する

季節が落ちるところまで
僕は落ちてしまったようだ
だが軌道は落ちずに分枝した
波立ちを固着させたまま
水を撫ぜて水を撫ぜて
死んだ僕の溶け落ちた脳の先に
一本の裏切り続ける坂として
一本の裁き続ける草として


自由詩 軌道 Copyright 葉leaf 2006-10-28 19:30:32
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