パリ
もも うさぎ

鬼ツバメを頭に乗せた女が
口をつける勢いで話をする

ゲイのオトコの、Tシャツに透ける乳首だとか、
まぁそういった話で

あたしはその塗りたくった唇から
目を離さないで居る


となりの席では
金髪のオンナノコが二人キスしていて
たまにこっちを見てくるし

飛んじゃってる男の子が ズボンを脱いで踊ってる


あたしはまだ
濡れた唇を見ていて

話は そうだな

焼け死んだっていう5人めの旦那の話だったかな



さっき飲んだものに
何が入ってたのか知らない

家で食べた カルボナーラのパスタは
もうすべて戻してしまった


カーテンの隅では黒髪の女がセックスして
トイレでは 生きてるのか分からない女の人が倒れている


そういう

場所で




あたしは
目も眩むくだらない照明や
騒音でしかない音楽や

水音
一人アルコールを飲んで




どうしてもここから離れられなくて

毎日泣いて


髪を乱して





心の中で

片隅に、



いつも



見てる





そんなものばかり
煩くて
煩わしくて

いとおしくて





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





あの頃は
毎日飛んで


毎日ろくに食べなくて
病気の巣窟だ、なんて言われながら

あたしはただ
目を開けているだけで
きっと何も見ていなくて

でも愛しいものが何かは分かっていた
底抜けの孤独も寂寥感も



故郷の面影と、祖父の愛以外は
なんでも犠牲にした














鬼ツバメを頭に乗せた女は 




もうとっくに死んでしまった

















自由詩 パリ Copyright もも うさぎ 2006-10-28 02:52:49
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