衛星クーピー
佐野権太

遠ざかる二段ロケットの軌道
静寂に浮かぶ銀のカプセル
どちらが動いているのか、は
もはや問題ではない
ただ、離れてゆく
    

(お腹空いたかい、ラナ
(大丈夫、ピザを持ってきたから
(あぁ、すっかり冷たいや

肩のほころびを
撫でる少年の細い指先
ラナと呼ばれたぬいぐるみの
ガラス玉が惑星の色を映す
    

(寒いとき、どうすればいいか知ってるよ
(抱き合うんだ、生まれたまんまの姿で

あらゆる制約から解放されたはずの少年も
白い恒星の輝きを受ければ
淡い影を落とす
それは、静物であるラナとて
    

(クーピーを持ってきたよ
(大好きな青を、たくさん

わずかな星あかりを集めた
銀の削り刃
ねりねりと抵抗を回せば
湿った青がほどかれてゆく
うっとりと鼻先を泳がせる少年
    

(あんしんするね、ラナ
(青い衛星になるんだ、ぼくら

やがて、儚くも
芳醇ほうじゅんまゆを完成させた少年は
やわらかい胎児となって
回転をはじめる
    

(だいじょうぶだよ、ラナ
(ラナはいつも、笑ってくれるから

回りながら
廻り続けることが
原子の、生命の、宇宙の摂理ならば
誰もが
ゆるされた空間に漂いたいという深層を
抱くものなのか

少年も、ラナも


自由詩 衛星クーピー Copyright 佐野権太 2006-10-27 09:24:48
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