鍵盤
たもつ


すべてを失っても俺はピアノなのだ
鉛筆は言い出した
プラスチックの筆箱の中
いくらなだめても聞く耳を持たない
仕方なく握るところを鍵盤に見立てて
弾く真似をしてみた
もちろん音が出るわけがないので
音階もいっしょに歌った
ああ、俺の音はこんなにも変てこなのか
鉛筆は嘆き悲しんだ
改めてちゃんと歌い直すと
やっと安心して穏やかに笑うようになった
毎日使われ続け鉛筆は短くなり
鍵盤の数を少なくしていったけれど
それを誇りにしていた
やがてわたしに捨てられる日まで



自由詩 鍵盤 Copyright たもつ 2006-10-24 18:29:22
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