四ツ花
Rin.
私は
花びらが一枚足りないの
みんなは五枚なんだ
でもね
一
ずっと前、
私は小さな種でした
ほんとに小さくて、軽くて、やわらかかった
あの土と、この風が私を育てて
それはもう、書き換えられないストーリー
ただひたすら直線を縫うように
時は紡がれて、そして私は咲いたんだ
でもね
私には花びらが足りなかった
双葉の頃は
友達と同じ数だけ
葉っぱがあったんだよ
それにね
私の花びらは
一枚だけ黄色い点がある
二
花びらが足りないと
ちょっとだけ平衡感覚がない
黄色い点を通すと
世界が眩しい
春が私を咲かせ、夏が私を
少しだけ愛した
ほんの、すこしだけ
夏が私を残して、秋に私は
少しだけ濡れた
世界は眩しい
晴れた日ほど白く光って
大切なものを見失う
夏は
どこにいるのでしょう
三
花びらが足りないから
虫も、鳥も、首をかしげるの
私も花なんだけどな
まっすぐ立つとか
横向きの雨をかわすとか
できないこともある
それでも
私も花なんだけどな
気づかないあなたは、万能ですか
四
冬は寒いから
あのひとをノックした
あのひとは冬だから
余計にあたたかい
秋の雫の虹色が
美しいといった
あのひとの部屋で
一足先に春を見た私
*
部屋には小さなサボテンが飼われていた
双葉の頃から、サボテンは知っている
でもこのサボテンは
黒い
棘がとっても多くて、足元は青かった
でもね
私は首をかしげたりしないよ
だってあなたはサボテンだから
あなたに棘が多いわけ
刺さらなくても分かるのは
私だからでしょうか
*
あのひとの部屋で
黒いサボテンの声に耳を澄ます
そうしていると思うんだ
この世の中に
偶然なんてないのかもしれない
あの土とこの風が
消せないストーリーを綴って
私に花びらが一枚足りなくて
黄色い模様があって
夏に残されて
だから私はこの部屋にいて
こうしている
偶然は
必然なのかもしれない
五
四枚の花びら
四ってエンギが悪いと言った
あの頃に
しま猫のおばあちあんが
しあわせの「し」だと教えてくれた
私には
花びらが一枚足りないの
みんなは五枚なんだ
でもね