この町には海がない
Lucy.M.千鶴

夕暮れの町をポストに向かって歩いてく
人気ない目抜き通りへの道
工場の白い壁も
道路の白線も
うっすらと しぼったオレンジの色

何でもないのに突然
泣きたくなって
駆けだして
海へ行きたくなる

涙は海で出来ている

水滴に水滴を近づけると
同じものどうし ひきあって
交わろうとするように

人が海で泣きたいとき
きっと 海も人を呼んでいる

だけど ここには海がない
涙をさらう風もない

想いはそこへよせるのに
かえらない波の音

たどりつけば目抜き通りも人気なく
薄暮に照らされて
波よりも白い封筒ポストに入れたから

海辺の町に住む友達が
かわりに
潮の香りの返事を
くれるだろう


自由詩 この町には海がない Copyright Lucy.M.千鶴 2006-10-23 16:09:06
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