渡し場
下門鮎子
渡し場で舟を待つ。
遠くから響く風に耳を遣ると
今しがた現れた
言葉がみんな消えてしまった。
残念なことだ、
水面の紋でさえ
こんなに早くは消えない。
渡し場に佇む。
風に運ばれて舟がたゆたい
舳先をこつんと渡し場に当てる。
船頭に代わり、櫂をにぎれば
わたしは舟底に体を預け
どこかへ
わたし自身を渡す。
自由詩
渡し場
Copyright
下門鮎子
2006-10-22 13:30:21