乙女の傘
杉菜 晃

雨が降つてゐる
黄色地にピンクの花を咲かせた
美しい傘の乙女が行く


雨は 
乙女の傘に弾けるときだけ
ぱつと明るく輝く


車道を車がきて 
泥水を撥ね上げる
乙女は傘を盾にして 
撥ねを防いでゐる
車は 
乙女の心臓と一体の傘を
凌辱して走り去る


乙女は汚れた傘を天に向ける
雨よ 
しとどに降れ
乙女の心を 
汝の激しき愛によつて
洗ひ浄めよ


雨は降つてゐる


水溜りにさしかかり 
悪魔の策謀としか考へ
られぬタイミングで 
車が疾駆してゐる


乙女は雨に洗はれた傘を 
再び武器として戦ふ
泥水は容赦なく撥ねかかり 
乙女の心をづたづたにして走り去る


乙女は祈る心で傘を天に向ける


―雨よ 滝となつて降り 
   私を洗つておくれ―          


乙女は目的地に着くまでの道程 
この繰返しだ


雨は降ってゐる


地は汚し 天は浄め 洗ふ
地はかきむしり
天は‥‥‥‥






自由詩 乙女の傘 Copyright 杉菜 晃 2006-10-20 13:02:15
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