さ、の
佐野権太

亀、知りませんか?
背中に「さ、の」って書いてあります
それは、自分自身です
こんくらいのやつです
かたちは日々変わるんです
生きものですから

お腹を押すと泣きます
水曜日の午後だけです
どうしたらいいでしょう
青い空が好きです

きっといまごろ
道に倒れて誰かの名を
呼び続けたことが
ありますか?

そういえば
置き手紙がありました
十九の春です
両親には言わないでください
ええ、写真は今でも

ええじゃないか、と
よいではないか、は
意味は同じだけど
状況は、まるで違うんです

あーそう、亀です
何匹もの小亀です
ジョンやサミーやハオハオです
花子にレイラにマリリンです
それぞれに生があるんです
一括ひとくくりにしないでください

実は私、見たんです
幾筋もの
引きずったような跡を
海を目指したんです、きっと
それぞれの海を

頭の中が消しゴムなんです
消しゴムの中が頭なのかもしれません
疲れたでしょう
温かいお茶でもいかがですか?
あぁ、あなたのお茶でした

そうですね
もう一度探してみます

いいです
歩いて帰れます



  (ピンポンパンポ〜ン
  (体育館の裏に
  (ズボンとパンツを一緒に脱ぎ捨てた方は
  (職員室まで取りに来てください。
  (パンツに自分自身が絡まって
  (もがいています
 
  (「さ、の」って書いてあります


自由詩 さ、の Copyright 佐野権太 2006-10-20 10:36:17
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