アヒル謳歌
杉菜 晃



野道をアヒルが腰を振り振り歩いていた
前方に蛇が長々と寝そべっている
アヒルは気味悪がって
引き返そうか
進もうかとひとしきり思案して
結局
蛇を遠回りに避けていく
重たい腰振りの
よちよち歩きで

古木に留まっていた鷹が
蛇を見つけて降りて来ると
鋭い爪に引っ掛けて舞い上がる
古木に戻って辺りを睨みつける
持ち帰った蛇を狙うものがいないかと
爪に突き刺さった蛇がいかにもがこうと
そんなことは平気の平左

アヒルと鷹が
二種類の男性の比喩としたら
女性の心は鷹の方に
さらわれて行くのではないだろうか
けれども アヒルにも愛慕があって
子供を生むと
アヒルと思っていとしむのだ
全方位愛の女性はこれでいいかもしれない
しかし当のアヒルはそうはいかない
アヒルは赤子ではなく
れっきとしたアヒル男なのだから

こんなアヒルを
心から哀れんでやれるのは詩人だ
女ではない
女性詩人ではあっても 女性ではない
そこでアヒル謳歌なんて詩が生れてくる
期せずして拙作がそのようなものになった
アンガージュマンなどもくしていないが
アヒルに寄せる
素直な心に生れたアヒル謳歌が
世の女性の胸を開き
アヒル男を見直し選び取るものも
現れてくるのではないか
そんな淡い期待の詩の効用を
私は否定するものではない
これからも愛すべき愚かなアヒルを
謳っていくだろう

アヒルよ
よちよち歩きの
腰振りでは
決してスマートな歩みとは言えないが
天性の人の好さと愚直を武器に
真っ直ぐ進んで行こうではないか
真っ直ぐの道でジグザグになったり
迂回したり
時々休憩を取ったりするのは
許容のうちだ
目標は永劫の陽に照らされた
あの丘だ




未詩・独白 アヒル謳歌 Copyright 杉菜 晃 2006-10-19 21:52:53
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