農業

軒先で繰り返される 喧騒は疎らな囀りで
それは押し寄せる細波や そよぐ木枯らしよりも小さい
時は氷河の流れよりも緩やかに 木漏れ日を浴びている
人々は これでもかというくらいの反芻を
享受しつつ 季節を手繰る
ひとつひとつ歳を重ねながら 育み続ける実り
それでも 天寿を全うするまでの
ほんの数十回しか 迎えられない笑みだから
手塩をかけて 労を惜しまず
可愛い我が子のように
両の手で 包む

孕まれし母体に慈しみを
産声を目の当たりにして穏やかに
すくすくと育つ 頬の柔肌を撫ぜながら
反抗期に耐え、看病に明け暮れて
大きく育った凛々しさに酔いしれるも束の間
嫁に出す切なさ 託す葛藤と覚悟
そして、喜び


今年も 見事なまでに
枝を水平に しならせながら
風に揺れている


あの時、木漏れ日に光った目頭の一粒は
土に落ち 春を待つ
季節は山野を白銀の布団で優しく包み込み
やがて芽吹く 春を待つまでの間
子守唄は蕩々と
綴じ込めた村落の片隅にまで
等しく 響き渡って行くものだから
誰しもが思い出せる 一時の胎児の安らぎを



自由詩 農業 Copyright  2004-03-18 21:50:31
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