うばすてやま
吉田ぐんじょう

うばすてやまについて考えている
祖母をそこへ連れてゆきたい
訳ではない
昼下がり
冷えた湯呑みが二つ
並んでいる

祖母が歩くと
割烹着のポッケットから
何かがこすれ合う音がする
祖母はいつもポッケットに
ティシューと飴を入れている
若しわたしが転んでも
血を拭いてやれるように
飴を口に含ませてやれるように

洗濯をするとき
祖母は自分の分を
皆のと一緒に洗わない
あとでこっそり洗っている
一緒に洗うのはいやだっぺ
と笑っている
そんなことないよ
とわたしは呟くが
その声は
祖母には届かないみたいだ

手を洗っていると
祖母は
わたしの腰を抱いて
細い身体だな
と言う
でも
体重は祖母の方が軽い
そのくらいわたしは知っている
石鹸をあわ立て
腰をかがめたまま
祖母に抱かれたまま
段々背中が痛くなってくるのを
じっと我慢する

さびしいと言う声が聞こえる

うばすてやまについて考えている
祖母をそこへ連れてゆきたい
訳ではない
ただ考えているだけである

電気ポットの湯が沸いたので
わたしは祖母のために
お茶を入れ替えに立つ



自由詩 うばすてやま Copyright 吉田ぐんじょう 2006-10-18 10:57:09
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