うたまくらの浜
Rin K

 

 一 琴引浜

さくら貝は、はかないという言葉がお好き
はかないという枕詞がつくものには
とりあえず歌ってみる
それらはかつては量産されたものだが
貝は、そんな厄介なものは持ち合わせていない

     *

鳴り砂は鳴る
泣き砂ともいう
クッ、クッ
その声の原理は学んだが
泣かせると海面が上がること以外は忘れてしまった

     *

竪琴といえばビルマか
あと一歩で振り返った、男の悲しさが浮かぶ
ベガという名は強そうだ
はかなさとはおよそ対極にある

琴弾きが朝の散歩をするたびに、鳴り砂は泣く
さくら貝は伴奏を選ばなければならないので
とりあえず朝日に染まってみる

虹の琴線を弾く
琴弾きのまなざしは遠い
風に揺れる銀髪の触れ幅と、薄れた弦が重なる


  二 水晶浜

蟹が海月をはさんでみる
膨らんだり仰向けになったりする海月の身体反応がおかしいらしい
海月は透明な血を流すということを私は知ってしまった
蟹は堅すぎる
まだ、堅すぎる

     *

蟹につけられた傷は、海では癒せない
蟹につけられた傷は、蟹しか癒せない

     *

透きとおりすぎた海は冷たい
透明は冷たい
遠い朝から、琴の音色がきこえる
震える空気が硝子につけたミクロの傷を
さざなみと呼ぶことを、蟹だけが知っている


  三 白良浜

 熱い雪ってあるんだね。私が笑っても、祖父は決して笑いとばしはしなかった。遠い冬に苺をくれた手で、熱い雪に触れた。私はそこで思い出す。彼はかつては船長だった。世界にないものはない。それがキャプテンクックの口癖だ。
 巻貝に耳を当てていると、祖父はいつも船を出した。その音のする海を探そう。
モーター音は大好きだ。ついでに冒険という言葉も大好きだ。白い飛沫はスピードの誇りらしい。海月は相当あわてる。

     *  

鳴り砂の声に似た
舵のきしみ


   四 久美浜

地球の自転の話に、三半規管がむずがゆくなる
家路を急ぐ子どもが、狂ったように回る

回り続ける限り
海は青い
ゆけるところまで
ただ、ゆけるところまで




自由詩 うたまくらの浜 Copyright Rin K 2006-10-18 01:03:33
notebook Home 戻る