ポヨンの大往生
atsuchan69

あれは大阪長居の安アパートに転がり込んできた僕みたいに
公園の木の上で啼いているのを 当時、純朴だった妻がみつけ
憐憫の情が働いたのかどうか 
拾ってきた、傷だらけの尻尾のちぎれた子猫だった

酷く間違いだらけの僕の記憶に因れば
アビシニアンの雑種だった、かな?

妻は子猫を「ポヨン と名づけた

或る夏の日、ミナミへ買い物に出かけたときだった
防犯のため閉めきった部屋のなかで
ポヨンは発狂し、部屋中を ぐちゃぐちゃにし、
挙句の果て 散乱した衣服の下に埋もれて
眠っているところを、帰宅した妻に踏まれ「フギャー! と啼いた

出血はなかったものの、
内臓破裂寸前か? すぐさま病院へ
そして手術。
よほどの痛みだったに違いなく、
「フギャー! の声が胸を張り裂く

以来、ポヨンは人間不信となってしまったが
それを無理やり繋いでいるような、僕たちの生活は続き
マタタビを嗅がせたり 加太の海へ連れて行ったり
好物の鳥のささ身を与えたりし 缶詰も高級品ばかりを買った

妻は僕との結婚のために銀行を辞め、
僕は彼女との結婚のために働きはじめた

やがて新築のマンションに移り、
日中、部屋には飼い主の姿はなかったが
窓はいつも開いていて 高層のベランダに出ると
都会のビル風がすこぶる気持ちよく感じられた

ポヨンはベランダの手すりに跳びのると
さすが猫らしく、堂々と危ない橋を渡る

夜になって僕はポヨンを弄り回すが、
ポヨンはそれが たまらなく嫌だったにちがいない
しかし僕はよくポヨンを腹の上にのせて眠った
するとポヨンは主人が眠ったのを確かめ、
そっと忍び足で自分の寝床へ帰って行った。

飼い主とは勝手なもので、妻の妊娠がわかり
そのことを猫に話もせず 幾多の都合を築き上げれば・・・・
結論。「ポヨンを妻の実家へ 空輸することになった。
九州からわざわざ妻の姉が出て来てくれて
僕たちはその飛び立つ機の轟音を見送った

そこには山羊がいて アヒルがいて
仲間がいて 皆、放し飼いだった

ポヨンは自分の妻との間にたくさんの子供をもうけ
幾匹もの愛人がいて 彼女たちにもたくさん子を産ませた
地元のボス猫として君臨し、トラックに轢かれて死ぬまで
彼はやはりどこか「人間不信のままだった・・・・らしい。

僕は妻とケンカしたときいつも必ず、
「おまえはポヨンを踏んだ女だぞ。と口にする
妻は「――ひとの心の傷を利用して 説き伏せるなんて最低!
と言う、「最低か。なるほどナ

今でもポヨンは僕の夢のなかに時々登場する
夕べ、また出てきたので想い出を綴ってみた。

ポヨン、色々と ゴメンね」


自由詩 ポヨンの大往生 Copyright atsuchan69 2006-10-16 18:59:04
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