【 羊水 】
豊嶋祐匠
白が白じゃなくなる。
黒が黒じゃなくなる。
好きなものが妙に疑わしくなる。
嫌いなものが少しだけ綺麗に見える。
純粋が無意味に思える。
優しさが嘘っぽく聞こえる。
君が生きて来たこの20年とは
きっと
母の胎盤に包まれた世界と
さほど変わらなかったかも知れない。
羊水で満たしていた心は
不安な空洞を見せ始める。
手触りが変わり色が変わる。
匂いも音も。
人もまた
去る者と来る者が現れ
君の価値の在り方を
変え始めて行くだろう。
君が君らしく無くなるのは
誰が悪い訳ではなく
お節介な訳でもなく
新たな感性は
けして君への裏切りではない。
君がこれから触れる出来事に
急ぎ足で理由をつけないで。
なぜ変わったのかと
理由を聞かないで。
誰かが答えた理由など
君の邪魔になるものばかりだから。