カクモハカナキカナ
藤原有絵

敢えて言うなら、夕方のラッシュでみた
下劣で教養の無い、カップルの会話!
「空気読めよって、さすがに言ってやったんだ」
クッキーの型で、綺麗に抜いて
駅前のゴミ箱に捨ててきた
カクモハカナキカナ
憂える未来
君たちは立派な人間を育てられるか


今夜部屋で地球儀を回して
知ってる国の数を数えた方がいい


僕が、真面目にここまで話すと
恋人は笑いながら、相づちをうつんだ
母親気取りで
それがまったく腹がたつんだ

「君は世界が広いってことを知ってる人なのでしょう?」

恋人はそれだけ言うと
目を閉じてハミングを始める

それを聞きながら
もういいかと思うんだ

駅前で捨ててきたなんて嘘だ
僕は絶対に持ち帰るのだ
どんな感情も

選択反射
選択吸収

これも嘘だ

あらゆる事は常軌を逸し
一方的にやってくる

もう、全てが交通事故!

現代社会は慇懃無礼な笑みをたたえ
あらゆる民族に制裁をくだすつもりなんだ

嗚呼 まったく
カクモハナカナキカナ
ホモサピエンス

ついでに言うと
クラクションを無闇に鳴らして
幸福メーターがんがん下げてる

無礼な運転手どもめ
いっそ自分を轢いてみたらいい

遺体になって
焼かれちまって
灰になって
還っちまえばいい
あんたの走行距離ほど
世界はあんたを祝福なんてしてないさ


ここまで言ってもだ
恋人はハミングを続けている

君って一体どういう神経しているわけ?
僕の話、聞いてるのかい

僕はよけいにイライラして
だんだん虚しくなってくる


「私は君にもある神経で、君の話をきいているよ」


これが彼女の奥の手なのだ

カクモハカナキカナ
は、僕の環境ストレスだ


結局恋人一人の余裕の笑みで
こうして相殺されてしまうなんて


まったくもって

もう

言葉も無いよ




自由詩 カクモハカナキカナ Copyright 藤原有絵 2006-10-15 23:09:01
notebook Home 戻る  過去 未来