断面
黒川排除 (oldsoup)

今でも取り壊されたアパートを思い出す事ができる
こんなに小さな区画があれほどの生活を支えていた
土砂の色は汚い それとは関係のない事だと思っている

雨の日に用もなく傘をさして外を歩くと
いつもは気にも止めない下水が潤っているのが見えた
おそらくこのゴミの浮いている下水を歩くと
道を歩くのとは違いどの家の玄関も見えないだろう
家の背中にこれほどの生活の跡を認めたとしても
それが顔より豊かな表情を持っている事には気付かない
考え至ったとき背筋に流れた冷たいものは 確かに雨だ

なにより苦労人の背中をわたしは見た事が無い
食事時に足が膝下まで濡れている事に気付いて
わたしは自分の願望と事の夢遊さ加減を知った

数日後下水はすっかり干上がっていて深みに日陰を作っていた


自由詩 断面 Copyright 黒川排除 (oldsoup) 2004-03-17 18:34:29
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