アキ
草野春心



  想い出は焦げ茶色
  今は 今すぎて
  昔は 昔すぎて



  アキ
  君の笑顔には この空が とてもよく似合った
  うまれたての青い空
  もっと君に見せたかった



  どんなに悲しくても 一人ぼっちでも
  空は青いまま
  若くて老いぼれた この世界に
  僕はまだ立っているんだよ



  あげられるものなら
  すべて 君にあげたかったのに
  かわりになれるなら なりたかったのに
  アキ
  君は死んだ
  一瞬の夏に 太陽みたいな声だけ遺して
  アキ
  君は最期に僕の名を呼んだと そう聞いたけれど
  僕は君の所へは行けないんだよ
  知っていたの? アキ
  アキ



  死ぬまで泣いていられたらなぁ
  死ぬまでここに居られたらなぁ
  君が居ない世界に
  君を漂わせたままで



  だけどアキ
  もう君は僕の所へは来れない
  ぜんぶ本物だから
  一人ぶん軽くなった 自転車の背中も
  ぜんぶぜんぶ本物だから



  アキ
  何も遺さず君は死んだから
  僕は自分で探すしかないんだよ
  何を探すのか まだ分からないけれど



  さよなら アキ
  いつか君の所へ行く日には
  何も遺さず僕は死にたい
  空も海も風も光も
  ぜんぶぜんぶ 君にあげるから




自由詩 アキ Copyright 草野春心 2006-10-12 20:46:38
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