Non-sentimental journey
安部行人
わたしの眼は旅をする
わたしの心は部屋にとどまる
都市から原野までのあいだで
眼はあらゆるものを見て記憶し
それだけで帰ってくる
心は記憶を平面に読み
何ひとつ解釈しない
過去から未来までのあいだで
眼が見ているものは変わってゆく
眼が見ていないものも変わってゆく
変化する現在のただなかで
あらゆるものはただそこにある
そのことはまったく変化しない
わたしの手は手紙を書く
わたしの眼はそれを見ない
一行と一行のあいだの深い空白
それを感じるのは手のおこない
眼は文字を正確に読み
何ひとつ解釈しない
空白と空白のあいだで
手が書く言葉は変わってゆく
書かれなかった言葉は不明のもの
開かれる無数のページのうえで
あらゆる思考はただそこにある
そのことはまったく変化しない
∴
わたしは確かに遠くにきたが
それはどこから見て遠いのか
遠く見えているが近いのか
わたしは見失いながら
あらゆる方角の意味を知った
わたしは奪いながら
あたらしい痛みを習得した
わたしは敗北し勝利した
わたしは消滅し生成した
わたしは無数の名前を持ち
輪郭のうちに交わらないまなざしを備える
分裂しているが根はひとつのもの
わたしは都市にすれ違う
わたしは原野にひとりで立つ