弔い
海月

今日、貴方はこの世界を旅立ちました
それでもこの世界は何も変わらない
万人はこの答えに直面して受け入れてきた

若くして病で旅立つ人もいれば自ら望んで旅立つ人もいる

数十年前に一人になった
おばあちゃん
数十年前にばあちゃんを置いていった
おじいちゃん
何処に行ったか分からない
お父さん
小学校にあがって直ぐに旅立った
お母さん

お母さんが旅立った日
僕は泣けずに空を見て
雲の流れを静かに見送った

それからはおばあちゃんを大切にして生きてきた

死ぬ事を初めて考えたのは歴史の授業で戦争を学んだ時
二度とは戻らぬ生命の形
否応なしに涙が溢れてきた

おかあさん
おかあさん

その名を呼んでも返事をするのはおばあちゃん
偽善の優しさを知ったら余計に悲しくなった

ねぇ、どうしてぼくにおかあさんはいないの?
ねぇ、あの日におばあちゃんがついた事は嘘だったの?

何も云えずに震える肩を見た時に僕は自分の部屋に走った
僕は大切にしているものを傷付けた
それは借り物の漫画を汚す
それはプラモデルが壊れる
そんなことよりも大きな衝撃が胸中で芽生えた

最低限の会話を繰り返して年月は流れた
僕は「ごめん」の言葉も云えずに大人になっていた

今日、貴方の命日に告げる
ごめんな・・・
それでも何も変わらずに明日はやって来る



自由詩 弔い Copyright 海月 2006-10-08 23:12:47
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