おタマヶ池
千月 話子
にゃんにゃこりんの にゃんにゃこにゃ〜
にゃんにゃこりんの にゃんにゃこにゃ〜
どこからか鈴の音と 日向が窓辺に
秋祭りだろうか 風にあんずの匂いを乗せて
午後三時 コタロがお腹を空かせて鳴くものだから
カリカリを少しだけ小皿に乗せた
私もせんべを一口かじってみたけれど
擦り減った犬歯では あんなに鋭い音はしない
共有した固形物は魚と醤油の臭いを混ぜて
部屋の真ん中で ゆらゆら
南の窓から早く甘い甘い花の香りがしないかと
遠い庭園の 低い木の黄色を夢見る
ムートンのカーペットに頭を乗せて
コタロの耳はペタンと眠る
手足がうまいこと 右に左に向いているので
彼の秋祭りは もう始まっているようだ
柔らかい陽に照らされて 気持ち良い猫の
白いお腹の縞の島から お魚が飛び跳ねて
それは小さな おタマヶ池
お前 いつも秋になると教えるのね
私が昔 猫だった頃のこと
・・・・・・・・・・・・
水仙の花咲く池のほとりで待ち合わせした
白い綺麗な猫を ナルシスと呼んでいた
私は小さな蝶々を追って
向こう岸で 飛び跳ねて飛び跳ねて
ザブン と池に落ちたのを彼は
緑色のビー玉のような瞳で見ていたのだろうか
沈む私の手の平は
慌てるでもなく
サヨナラ と揺れていた
にゃんにゃこりんの にゃんにゃこにゃ〜
にゃんにゃこりんの にゃんにゃこにゃ〜
秋祭りには おタマヶ池をぐるりと回る
猫 猫 子猫 の肉球が
静かに踊り 可愛く笑う
今頃 どこの家々も
眠る子達の手足の形
アンバランスに踊っているよで
微笑みの絶えない
人 人 子供の 皆が幸せ
真横で眠る ごろ寝と午後猫
コタロの白いお腹の 縞の島から
お魚が飛び跳ねて 窓の外から
季節外れの水仙の香り
ナルシス もうすぐ会えるね
コタロがふにゃん と微笑んだ
おタマヶ池が静かに 波打つ