魚の夢
tibet
耳の奥には乾くことのない水が溜まっていて
魚だった頃の記憶をいつまでも忘れさせてくれない
たしか魚だった頃に流した涙は今でも耳の奥で
さざ波を立てて遠い日の思い出を囁き続ける
人間になって初めて得た試練は
ラムネの瓶の中にあったガラスの球
あれは
あの音は
あの色は
昔々に漂った海中の音風景
朝目覚めて窓から外を眺めると
住宅街の街並みの空に漂う半透明の魚がいた
魚はじっとこっちを見つめて
しばらく見つめてグレーの波の中に消えていった
自分の尻尾を追いかけている猫を見たら
多分その猫も昔は魚
猫はあまり昔の記憶が残っていないのだろう
落ち着いた頃に魚だった頃の話をしてあげる
今は忘れているかもしれないけど
決して思い出さないかもしれないけど
お前と行った海底への冒険話をしてあげる
乾いた時に涙が出るのは
それはきっと昔魚だったから
魚だった頃に流した涙は
人間になりたくて流した悲しい涙だったけれど
その涙で海の水は少しだけ綺麗になった