魚の夢
tibet


耳の奥には乾くことのない水が溜まっていて

魚だった頃の記憶をいつまでも忘れさせてくれない



たしか魚だった頃に流した涙は今でも耳の奥で

さざ波を立てて遠い日の思い出を囁き続ける



人間になって初めて得た試練は

ラムネの瓶の中にあったガラスの球


あれは
あの音は
あの色は
昔々に漂った海中の音風景



朝目覚めて窓から外を眺めると

住宅街の街並みの空に漂う半透明の魚がいた

魚はじっとこっちを見つめて

しばらく見つめてグレーの波の中に消えていった



自分の尻尾を追いかけている猫を見たら

多分その猫も昔は魚


猫はあまり昔の記憶が残っていないのだろう

落ち着いた頃に魚だった頃の話をしてあげる

今は忘れているかもしれないけど

決して思い出さないかもしれないけど

お前と行った海底への冒険話をしてあげる



乾いた時に涙が出るのは

それはきっと昔魚だったから



魚だった頃に流した涙は

人間になりたくて流した悲しい涙だったけれど

その涙で海の水は少しだけ綺麗になった


自由詩 魚の夢 Copyright tibet 2006-10-03 08:48:57
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