冬告鳥、海風に吹かれて
たりぽん(大理 奔)

告げるとも言わず
告げぬとも言わず
立ち尽くす老木は
潮風に白くやかれて
ただ待っているかのようです

運命とは渡り鳥でしょうか
暗い海のとぎれるもっと遠くから
糸車を回す母の手のように
やさしく絶え間なく繰り返す
それは渡り鳥でしょうか

宿命とは季節風でしょうか
思い出すこともない軽いものたちは
いつの間にか吹かれて
逆らうものだけが残される
その苦しさを宿すのでしょうか

  あの日、二人
  この防波堤の先っぽで
  雨雲の隙間、高層雲に映える
  白い渡り鳥を見ていたね
  風はしつこく誘ったけど
  僕たちは
  一緒にいる事が温かだったから
  暖流にも流されないって
  あの月と海、に誓ったよね
  君のお気に入りだった僕の帽子は
  吹かれていったけど
  もう色も模様も思い出せないね
  二人で歩く明日は見えなかったけど
  そんなことすら
  波間に漂わせて


告げるとも言わず
告げぬとも言わず
老木は
ハーモニカになるのです

渡り鳥は影の角度を変え
雲は立ち尽くし
母の糸車がからりと止まり
午後の凪が終わったら


きっちり風は
海へと還っていくのです




自由詩 冬告鳥、海風に吹かれて Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-10-02 00:32:50
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