少年と鳩
恋月 ぴの

可愛いやつと一羽のレース鳩を胸に抱いた
彼の眼差しは恐ろしいほどに優しかった
自分の弱いところを見ているようで
彼と一緒にいるのが嫌だった
彼と友だちだと誰にも思われたくなかった
それでも誘われるまま
彼の家の屋根に二人してよじ登り
空の彼方より舞い戻ってくる鳩の姿を
いつまでも捜し求めていた
吃音混じりの会話が鬱陶しかった
真っ白い雲に小さな黒いシミが出来た
どんどんと大きさを増す黒いシミは
やがて翼をせわしなく動かす鳩になった
鳩舎に入るのが惜しいかのように
家の周りをいつまでもぐるぐる回っていた
彼は両手を振りながら歓声をあげている
そんな彼の笑顔は途方も無く醜かった
初冬の寒空に鳩は羽ばたいていた
彼は今頃どうしているのだろうかと
ふと考えてみたりする
それは余計なお世話と言うものだろう
私が私なりの人生を生きてきたように
彼もまた彼なりの人生を生きているに違いない
いつものように孤独の屋根によじ登り
鳩の帰りでも待っているに違いない
生けしもの総て忌み嫌われるこの町の空を
意に介そうともせずに鳩は飛んでいる
相も変わらず彼はどもっている




自由詩 少年と鳩 Copyright 恋月 ぴの 2006-10-01 22:11:42
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