天使祝詞 ガブリエル
The Boys On The Rock

日曜礼拝の帰り
地区司祭のジェイコブから呼びとめられた
用件は 恋人を殺した地区女性信徒のあつかい
「あのおんなは
 罪を認め悔い改めております
 できますれば 天国の扉を閉じず
 主に魂の救済を取り次いでいただきたいのです」
またか・・・
わたしにはそんな権限はない!
わたしの役割は父のみ言葉を伝えるだけだ
いいかげん お門違いの嘆願に
つい マラーク*1であるわたしも感情を顕わに怒った
会堂の天辺にまで吹き上がる柔らかな羽毛
(天使の品格を疑われるのが多少心配だが)
ジェイコブは少しの間 沈黙して
突然 話題を切り替えた
「昨今 またあなた様を登場させた映画*2がありましたな」
眉間に刻まれる立皺がわかる
その手の映画での私は シャイロックと同じ役回りだからだ
どうせなら わたしの役こそはキアヌにやってもらいたかった
会堂中の信徒の冷たい視線を感じながら逡巡するわたしに
突然跪いて 慇懃に祈りを捧げはじめた
ただ その老司祭の言葉はとても不愉快だったが
「願わくは天において主の御前に仕うる天使をして、
 地上におけるわれらを守らしめ給わんことを。*3
 情け深き天のみ使いよ どうぞムスリムよりもわれらに情けを」
ムハンマドに啓示*4を下したことを根に持つ老司祭は
祈りと嘆願の中に一匙の毒を混ぜたのだった
これから クリストファー街にあるマーガレットの店で
ハロウィンの仮装パーティに出席するつもりだったのに
祈りの言葉は
嫌味な契約履行を迫る要求にしか聞こえぬ!
だが わたしは天を仰いで
寡黙がちの父へ問いかけた
イレギュラーで 不快なオーダーをするユーザーではありますれど
これも仕事、いや御心なのですよね? 父よ
答えの返ってこないことは分かってはいたが・・・
終業直前に割り込んできた厄介ごとに
一時は憤然としたわたしだったが 気を取り直し
ソドムの街を滅ぼしたときの勢いで双翼を広げ
罪深きおんなの救済のため 天に昇ることにした
昇天の最中 今夜着られなかったドラッグクイーンの衣装で
「I will Survive」*5を歌うわたし自身の姿を思い浮かべ
全身でリズムを刻みながら・・・

*1 ヘブライ語で神の使者
*2 キアヌ・リーブス主演の映画「コンスタンティン」(2005)で、
ガブリエル(ティルダ・スウィントン)は、人類を悪魔に引き
渡す悪役に描かれている。同様の映画で、「ゴッドアーミー」
(1994)でもガブリエル(クリストファー・ウォーケン)は、
人類に嫉妬する天使として描かれている。
*3 「天使の保護を求むる祈」
*4 イスラムではムハンマドにコーランを下したのは
  天使ジブリール(ガブリエル)であるとされる。
*5 グロリア・ゲイナーのディスコナンバー


自由詩 天使祝詞 ガブリエル Copyright The Boys On The Rock 2006-10-01 13:53:46
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
天使祝詞