パリーの空と街と
恋月 ぴの

「パリーへ二人で行こう」
あの頃は佐伯祐三に焦がれていて
寝物語に囁いた僕の言葉を
君は黙って受けとめてくれた
僕に離婚歴があることを
君は問わないでいてくれた
僕が夢見たパリーの空は
佐伯の描いた空と
繋がっていたのだろうか
熱情のマチエールは
この瞬間にも活き活きとしていて
うっかり触れようものなら
街の息遣いまで感じてしまいそうで
君は気付いていたのだろうか
別れた妻が自殺しようとしたことを
あれは忘れられない朝
ただならぬ気配に飛び起きると
白いレースのカーテンが風に揺れ
慌てふためき階下を見下ろせば
そこに動かぬ妻の姿があった
パリーの空よ
神も見捨てなかった妻の一生を
僕は薄情にも見捨ててしまったよ
パリーの街よ
熱情のマチエールは



自由詩 パリーの空と街と Copyright 恋月 ぴの 2006-09-28 06:42:50
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