13号地埠頭
水町綜助
この街の果ての海はいつかみたあのひろい川の河原に立っていた
海まで10キロのしるべが指していたもの
海鳥がゆっくりと羽をひろげ
それは昔見た映画みたいにゆっくり瞳に映しだされる
大きく二回羽ばたいて
うまれた波紋と水の玉をのこしてとびたってゆく
金色の光の帯が濃紺のみずを照らし
それは計り知れない質量でうねって
赤い鉄で出来たまちをすこしずつ溶かしていくんだろうか
光の帯
クローバーと白爪草を撫でて
僕の目は貫かれて
タンカーの煙
黒々としたのはみんな僕たちとおなじで
くっきりと吐き出されてそれから
風にさらされてひろがってうすらいでいくだけ
柵を越えて
あのみどり色のさびた柵はとてもひくいものだから
それを越えて沖へ伸びる防波堤を歩こう
海面に突き刺さる長い木の枝どこから生えたんだろう
白いビニールの袋泡だった海のみず
おなじリズム
突堤の恋人
その影が示す波の切れるところ
向こう岸は見えない
海鳥の記憶
羽を広げる見えない音
暁色に染まったビルは立体感を失い
海鳥が羽を広げる
ゆっくりと
海鳥が羽を
僕の記憶
生まれた場所の記憶
そこを離れた記憶
束ねた白爪草と黒い煙
波間に漂って
だから意味のないすべてのことを
僕はいとおしんだり蔑んだり
一つとして同じ事のない波のうえに揺れる太陽みたいに
ふるえながら
僕は茶色のムク犬みたいなこころで生きている誰かを
頭を撫でながら傷つけて
平気な顔をしてサンドイッチを頬張る豚
自分の痛みにすら鈍感になって
だからこそ食事をとる時間は浮かれたきもち
この金色の黒い海と
暁色の怒りと
静謐な冷たさに
身を貫かれて涙を流せばいい
そのためにクローバーと白爪草は
そこに生い茂っている