隣のおっちゃん
捨て彦

寝とったらまた隣がやたらウルサイから目が覚めた。
ドア開けてそーっと見てみたら、やっぱいつものヤクザやった。もう最近は慣れたけど、最初はマジびびってて、ほやけど興味があったから、何回目かのときに初めて今日みたいに覗いて見てみてん。めっちゃ恐る恐る。ほしたら、ドアガンガン蹴ってたヤクザの一人がこっちに気ぃついて、
「見せモンちゃうぞコラガキッ!!」
って。アレって!テレビとマッタクおんなじことゆうねんな!!まずそれにビビッた!!とかゆって、実はそうゆうことにビビッたのはそれから三時間後くらいのことやねんけど!そんときはそりゃぁコワイのなんのってカンジで、初めてマジヤクザに初ドス聞かされたってのは、そりゃもぅチビるどころのハナシやないで。おれ体カラダの穴という穴からいろんな変な液が出てきたっちゅうねん。
ほやけど、人間ってのはアレやな。人間様ってのはエライもんでな、あれや、バキに出てくる海皇みたいなカンジやな、どんな環境にでもな、人間って慣れんねん。ってか、アイツらもめっさヒマやな。ちょうどおれが朝起きなアカンくらいピッタシに隣のドアガンガン蹴ってくれるから、おれ目覚まし要らんしな。
ほいで、ガンガン音聞きながらな、おれバイトの用意すんねん。まぁテレビの音がよぅ聞こえへんってのが難点のど飴8分の5やねんけど、それも人間様持ち前の慣れってスキルでもって余裕でクリアやで。ガンガンのBGMにテレビの南光の声が微妙にマッチしてそれは繊細なハーモニーをかもし出しているってなもんよ。いやマジで。ざこばだけはなんかいっつも一人でハーモニーしてるけどな。あれは別格や。
んでな、服の用意とか歯ァ磨いたりとかして、そうやなぁ、髪セットしてるくらいになったら、ちょうどガンガンが止むんやわ。あれも絶妙や。そんなやから、たまーにバイト出かけるときとかヤクザに鉢合わせしてまぅときとかあるねんけど、最近はもう微妙に顔覚えられてる。
「おう。ニイチャンバイトか。頑張ってこいよ」
「オイ、ここのおっさん、いつ帰ってきてるか知らんか?」
とかゆわれんねん。あんな、おれ最近ちょっと嬉しかったりすんねんなぁ。あの、ヤクザな、あいつら、オトコやな。普通の男やないで。サンズイのほうの「漢」やで。かっこえぇなぁ。やっぱオトコはあぁいう風にならなアカンのちゃうかなぁ、とか思ってな。ほいで、最近ツタヤで任侠モンの映画とかよぅ借りてんねんけど、でもな、つい最近、ってか、昨日くらいに気づいてんけど、任侠モン見ててもサンズイの男にはなれへんよな(爆汗)


そや!!そうそう。最近バイト先でカワイイコがおるねんなー!!ってか、正確にはバイト先ってゆうか、配達先のキャバクラのコやねんけどな。
あ、そやそや、おれのバイトやねんけど、おれキャバクラとかスナックにオツマミの配達のバイトしてんねんな。そらもぅ、いっぱいまわらなアカンねんけど、その得意先の一つのキャバに最近入ってきたコがおんねん。うーわっ!バーリカワイイ!!!みたいな。ヒトメボレってやつやね(汗)。
んで、まだそのコ入ってきたばっかの下っ端やから、おれが配達とか行ったらいっつもそのコが会計とかやらされてんの。ほやからおれそのコからオツマミの代金受け取るときとか、そらもぅ、心のハートがいっつもどっきんこどっきんこってカンジで、おれめっちゃハズカシイやん!!てかなんか青春やん!!ってカンジ(爆)んでさ、そんなカンジでうろたえてるおれに向かって、あのコちゃんとご苦労さまーっ(ハート)ってゆうてくれんねん(泣)もうね。あれやね。愛が生まれた日や!!この日が!毎日!!!
・・。ってか、今気づいてんけど、キャバクラちゃうな。スナックやな。スナックのコやった。キャバクラでは女のコがお金払ってくれたりせぇへんもんなぁ(爆)


ってか、おもっこハナシずれちゃった。なんやっけー。って現実に戻ったらドア開けてるおれがヤクザに気づかれてるし。
「おぅ、ニイチャン。やかましいぃのスマンなぁ」
って、ほんまいつもながら冗談みたいなテレビの口調やしぃ(泣)おれ必死に笑い堪えながら、「そ、そんなことナイっすよ」て。ナイッスヨって、何世紀前の言葉ですか。どこからともなく斜め後ろの天空から痛恨のツッコミが入ってきて、部屋にもどって一人ふんぞり返ってもんどりうっているおれイエィ。とかなんだかんだやってるあいだに、いつも通りちょっとしてヤクザ帰っていったわ。
てか、じつはおれな、知ってんねんけど、じつはな、隣のおっちゃん部屋にずぅっとおんねん。ガンガンの最中も。つまりアレやな、居留守ってぇやつやわ。ようあんな怖いとこにずっとおるなぁっていっつも感心すんねんけど、おるねんな。ずぅっと。たまーに何処へやらよぅわからんけど、外出てたりするけど、道端でたまに会ぅたら挨拶とかしてくるから素でビビるし(泣)
ほやけど、多分栄養失調なんやろな。頬こけてるし、カラダめっちゃ細いし、年はなんぼなんやろ。なんかもぅ60半ばくらいに見えるけど、きっとホンマはもっと若いかもな。
なにしてあないに借金あるんか知らんけど、まぁあんなロクデモない連中から金借りてんねや。落ちるとこまで落ちてんねやろな。
どっちにしてもあんま関わりあいになりたないねんけど、ほやけど、なぁ廊下でへたりこまれてたら、絡まなしゃぁないしなぁ。なんか、一日に一回は廊下のはじっこに座って、ぼーっとしながら落ちてる何日か前の新聞読んだり、ワンカップあおったりしてる。
ってか、またヤクザ来たらどうするつもりなんやろとか思うわ。まず普通の神経ではないな。んで、おれそろそろバイト行く時間になったから廊下出たら、今日もおるし。たまーにこの時間帯にも出てきよる。ってか、遅刻しそうやから、菓子パン持って部屋でて、しゃぁないからチラッと挨拶したった。
「こんちわー」
つったら、2、3秒ずれて返事が返ってくる。これもいつものことや。
「おぅ。ニイーチャン、元気かっぁー」
いつものことながら疲れきってんなぁ。なんや、その生気のない目ぇ。ほっそいカラダ。もぅ飯もロクっすぽ食うてへんねやろなぁ。
「なぁ。おっちゃん、大丈夫か。おれな、他人やからおっちゃんになんもしてやれへんけどな、このパン食うか」
っつったら、いやぁ。とか、うーん、とか、めっさ遠慮してるし(爆)てかその癖、なんやおっちゃんのその目ぇ!パンに釘づけやん!ほやから、おれもっかい部屋戻って菓子パン全部もってきたった。
「ほら、ぜんぶやるわ」
ったら、なんか、口でぼそぼそゆうて、あげたパンに必死に食らいつきよる。ほんで、まぁおれはダッシュでバイト行くねんよ。ボソボソゆうてんのは、「ニイチャン堪忍な」ってゆうてんねんな、たしか。微妙に聞こえてる。いっつもそないしておっちゃんパン食いよんねん。


バイトあがんのが夜中過ぎくらいで、それから友達と飲みに行ったりしてたら、帰んの3時くらいかな。
今日は惚れてるスナックのコのハナシとか相談しまくっておもろかった。ってか、最後らへん、アイツらウンザリしてた。ほいでもう、ホンマめっちゃ眠かったから、鍵あけたらそのまま倒れこんで寝たった。
んで、何分くらい経ったんやろ。なんか、部屋ん中で人の気配がした。ゴゾゴゾ部屋動きまわってるカンジがするねんけど、面倒臭くて目開けんかった。ってか、どうせヒロシとか、ユウジとか、あとは、女連中やな。アツコとかマサミとかや。アイツらしょっちゅう人の部屋勝手に入ってきておれの布団の横で寝よんねん。ってか、アツコキサマおれの部屋で全裸で寝んな!!!朝起きたら焦るやろ(爆)!!
ごにょごにょしてるうちにいつのまにかまた寝てもぅた。起きたんは8時ころやな。


起きたらめっさ喉渇いてたから、お茶飲もうとおもたらお茶がカラ。水道の水は飲む気せぇへんから、下の自販機に買いに行こう思たんやけど、目ぇつぶって財布ひっぱったら、小銭がまったくあらへんかった。アレー。と思って、小銭入れ全開にしてみたら、なんやこりゃ0円やん。んなーわけあらへんって。昨日はジャラジャラ入ってたがな。ほいで念のために札入れも、って見てみて血の気引いたがな、カラや!と思うのと一緒のタイミングで猛ダッシュでおれおっちゃんの部屋入った。カギかかってへんで、割れるってぐらいドア押し開けたら、もぅすでにおっちゃんおらへんかったわ。んでな、よぅ見たら隅の机の上にな、ほんま、へったくそな字ィでな、またアホみたいに広告のウラに書いたぁんねん。
「にいちゃんかんにんな」
っつって。
・・・・・・・・・・クソジジィ!!!!!




散文(批評随筆小説等) 隣のおっちゃん Copyright 捨て彦 2006-09-25 02:39:33
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