超高層ビルの覚悟
ブルース瀬戸内

超高層ビルがそびえ立っています。
文明のシンボル役を担わされた、
超高層ビルがそびえ立っています。

超高層ビルは、
遥か遠くの非文明圏を見つめています。

足元の限りなく合理化された世界や、
自らの身体内部を行き交う
有線、無線の情報網には目もくれず、
遥か遠くの非文明圏を見つめています。

非文明圏は
遥か遠くから見つめられていることも知らず
果てしのない潜在力をちらりと誇ります。

非文明圏が文明圏になるということは
つまりは潜在力を既定されながら
喪失もしていくという一面もあり
その潜在力をほぼ完全に喪失したかもしれない
超高層ビルは
文明人がビルの完成度を称揚する傍らで
非文明圏に黄昏ているのかもしれません。

文明の粋を注がれた超高層ビルから見える、
あまりにも美しく非文明圏はたたずんでいます。

非文明圏の方角から風が吹いてきます。
野性に満ちた風が
ビル風になるのを避けて
通り過ぎていきます。


超高層ビルはしばらく考えて
少しでもきりっとしようと
前をすっと見て、そびえ立ちます。

超高層ビルは、文明のシンボルとして
シンボルであるために
前を見て、覚悟を抱えてそびえ立ち
遥か遠くを、見つめています。


自由詩 超高層ビルの覚悟 Copyright ブルース瀬戸内 2006-09-21 23:22:39
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